第四章
真紀はちっちゃくて、柔らかくて、あったかい。真紀を縛って抱きしめるたびに、いつも僕はそう思った。白い肌に赤い紐がくい込んでいる真紀の姿は、確かにイヤらしい。しかし一方で、そんな真紀を見ていると、僕はとても落ちつけるのだった。
僕は、真紀の後ろ手に縛った紐だけをほどくと、布団に横たえた。そして、隣に一緒に添い寝してみた。抱っこや添い寝もして欲しいというのが、真紀の希望だったからだ。秘密の願望を打ち明けてくれた大切な存在である真紀の願いなら、たとえSMには関係なくても全部かなえてやりたい、そんな気持ちだった。それに、裸の身体を縛られた女の子と添い寝するのは、言うまでもないが最高の気分だ。赤い紐にうっとりしている真紀の顔を眺めながら、僕は真紀の髪を優しくなでたり、口づけしたりした。
責めるだけではなく、こんなふうに添い寝したりすることも、実はSMでは重要なことなのではないだろうか。真紀との行為が進む中で、僕自身も、そう感じるようになっていた。赤い紐で縛ることも、抱っこや添い寝することも、結局は同じ意味を持つ気がする。真紀を責めるのは興奮するが、縛った真紀を抱っこしたり、添い寝したりすることでも、僕の心は満たされていった。そんな時、安堵の表情を浮かべる真紀を見ていると、僕は幸せな気分になれたのだった。
この日のために僕は、赤い紐以外にも、いくつか道具を用意していた。木製の洗濯バサミやSM用の低温ロウソク、バイブやローター。どの道具にも思い入れがあり、頭の中では使い慣れた物だったが、実際に試してみるのはもちろん初めてだ。そろそろ道具を使ってみたい、そう思った僕は、添い寝していた真紀を起こすと、ヒザを伸ばして座らせた。そしてまず、電池の力で、携帯電話のバイブのようにぶるぶる震える大人のオモチャ、ローターを手に取った。
会う前のチャットやメールで、真紀がそういう道具についての知識がある事は分かっていた。真紀は、これから起こる事を想像しているのだろう、なんとも言えない、いじらしい表情を浮かべている。僕は真紀の隣に座って肩を抱くと、ローターのスイッチを入れた。ブーンというモーター音が辺りに響く。僕は、まず真紀のおへそのあたりに、そっとローターを当ててみた。
真紀がビクっと身体をよじらせ、恥ずかしそうに顔をゆがめる。だんだん分かってきたのだが、真紀は身体を快感が襲っても、声を上げるタイプではない。慎み深いのだ。その時も、真紀はじわっと顔をしかめて、僕の腕をつかんだ。そして、ローターを持つ僕の手を押さえて、自分の身体から離そうとした。しかし次の瞬間、
「手にも、振動が…!」
と、驚いた声をあげて手を離した。ローターを持った僕の手も、わずかに震えているのだろう。そんな振動にも反応するほど、真紀は敏感になっていたのだった。
さっきは、ヒモが、ヒモが、と言っていた真紀が、今度は、振動が、振動がと、恥ずかしそうに口走りながら、縛られた身体をくねらせている。溶けそうな表情になっていく真紀をぎゅっと抱きしめながら、僕は白い身体のいろんな所にローターを当てていった。
軽い快楽責めとでも言うのだろうか、それは、SMプレイと呼ぶのには程遠いものだったかもしれない。しかし、たしかに僕たちは初めての経験に興奮し、十分に満たされていたと思う。