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だるま娘




 ボーナスが出たので飲み屋街をハシゴした私は、悪酔いして迷い込んだ路地の奥に、見慣れぬ店を見つけた。
「ダルマ娘だ……。こんなところで売られていたのか!」
 それまで私は、手足を切断された女の子、いわゆるダルマ娘について、噂では聞いたことがあっても、もちろん実際に目にしたことはなかった。しかしいま現実に、目の前にダルマ娘がぶらさがっている。その娘はショーウィンドウの中で裸で縛られ、文字通り天井からぶら下げられていた。まだうら若く、メガネの可愛い女の子だ。品書きに、”新入荷、生娘”と書いてある。私が呆然とその娘の姿を見ていると、そのダルマ娘は、恥ずかしそうな笑顔を、こちらに向けた。店の入り口に掛かっているOPENの文字を見て、私は思わず、その扉を開けたのだった。
「はい、いらっしゃい」
 カウンターに、でっぷりと太った初老の男が立っていた。
「どうでしょう、いい娘ですよ。今日入ったばかりです」
 男は話しかけた。
「勉強家で、頭もいいですし」
「勉強家?」
「ダルマ娘にも知能がいろいろありますからね。あの子は特別です、そのせいでちょっと目を悪くしたみたいですがね」
「あぁ、それでメガネを……」
「ご覧になりますか?」
「はい……、お願いします」
 男はダルマ娘が吊るされているケースの後ろを開け、娘を吊ってある縄を天井から外すと、ダルマ娘を抱えてケースから取り出してきた。
「ほら、お客さんだよ」
「えぇ……」
 男の腕の中にいるダルマ娘は、先ほどと同じハニかんだ笑顔を、私に向けた。
「お支払いはどうなされます?ご一括で?それとも月賦にしましょうか」
 店主の男は、私がまだ何も言わないうちから、支払いのことを聞いてきた。
「いや、まだ私は買うとは……」
「ダルマ娘を買う準備のできたお客さんしか、この店は見つけられないんですよ、ふふふ」
 男は謎めいた笑いを浮かべている。背広の内ポケットに入れてあるボーナスの袋を服の上から押さえると、私はすっかり、そのダルマ娘を買う気になっていた。
「じゃあ、一括でお願いします。それであの、世話とかはどうすれば?」
「詳しいことはその娘に聞いて下さい。お荷物は後日、直接ご自宅にお届けしますので」
「荷物?」
「その娘のことですよ」
 男は笑顔で言った。

 店から届いた荷物の箱の中には、娘の他に、バラバラになった辞書や百科事典が入っていた。
「私、自分ではページがめくれないものですから、こうやって一枚ずつにしてもらって、その上に転がって読んでいましたの……」
「それじゃあ、裏側のページが読めないから、つながりが分からないだろう」
「えぇ、ですから、物語よりは、このような辞書の方が面白いんです」
「なるほど……、じゃあ今度から私が、お話の本を読ませてあげよう」
 ホントですか、と、ダルマ娘は目を輝かせた。
「お勉強のほかには、何ができるんだい?料理とか、洗濯とか?」
 えっ、と、ダルマ娘が言葉を詰まらせた。私も言ってしまってから、しまった、と思った。
「いえ、他には何にも、できません……。ただ……」
 と、ダルマ娘は顔を赤くした。
「男の人にご奉仕することなら、私にもできるのではと、考えております……」
 そう言うと、ダルマ娘はうつむいた。
「なるほど、そういうことか」
 私は少し意地悪な気持ちになった。
「じゃあ、ご主人さまのオチンポをしゃぶることも、できるんだね」
 私はいきなりズボンを下ろすと、ダルマ娘の前に、オチンポを差し出した。
「あぁっ、はい……、ご主人さま……」
 ダルマ娘は可愛い口を精一杯あけて、オチンポをくわえこもうとしている。
「お前はこんな風に、男の人のをしゃぶったことがあるのかい?」
 ダルマ娘は、小さく首を横に振りながら、私のオチンポをしゃぶっている。
(そうか、生娘と書いてあったな……)
 私はあの店のことを思い出した。
「もう、今はそれくらいでいいよ、それより飯にしよう」
 ダルマ娘の支払いでボーナスを使い切った私は、インスタントラーメンを茹でると、ダルマ娘と分け合って食べたのだった。

「ここに来る前は、どんな所に居たんだい?」
 夕食後、風呂場でダルマ娘を洗ってやりながら、私は尋ねた。
「それは……」
 ダルマ娘は何も答えずうつむいた。
「言ってはいけない、ことなんだね」
「はい……」
「じゃあもうそれ以上聞かないよ。今日からはここがお前の家だからね」
 はい、ご主人さま、と、ダルマ娘は嬉しそうに微笑んだ。
「縛って、下さいませんか?」
 風呂から上がり、ダルマ娘と添い寝していると、娘が言った。
「ずっと縛られていたから、その方が落ち着くんです」
 そうか、と私は言い、娘の荷物の箱の中に縄があったのを思い出し、取ってきた。
「あまり上手じゃないけど、これでいいかな?」
 その縄を使って、私がダルマ娘を何とか縛ってやると、
「はい、ありがとうございますご主人さま……」
 と言いながら、ダルマ娘は満足そうに微笑んだ。
「自由にして、いいですから……」
「えっ?」
「私の、カラダ……」
 私はダルマ娘を抱き寄せると、その素裸の身体の温かい体温を、じっと感じていた。

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