鼻フックパーティーの午後


 一本一万数千円もするビデオには、鼻フックパーティーの様子や、本格的な鼻フック調教のシーンがおさめられていた。普通のマンションらしき部屋で女性が縛られ鼻フックをされて、観客の男性たちが、その姿を観賞したり、いろいろと意見を交わしたりしている。異様な、しかし楽しそうなその映像を見て、僕は片時も目が離せなかった。
 そのビデオで、さらに僕が引きつけられたのは、鼻の穴を横からも広げる鼻フックを使用していたことだ。上から引っぱり、さらに左右からも引っぱり、合わせて三方向から引っぱられた鼻の穴は想像できない形になり、もちろんその女性の顔は素顔とは全くかけ離れた様子に変わってしまう。自分の変態さがむき出されたような顔で責めを受けるその姿に、僕は激しく興奮していた。
 やがてその男性Y氏は、SM誌にも連載を持つようになった。鼻フックパーティーやその他の調教の生々しい、熱のこもったレポートを読んでいるうちに、僕も一度はその場所に参加してみたいという思いが日増しに高まっていった。実際にはその記事には鼻フックパーティー参加のための連絡先が書かれていたので、応募するのは簡単だった。しかし心の準備ができるまでには、それなりの時間がかかったのだった。
 とうとう思い切って連絡してみると、Y氏はとても気さくに、会場への最寄り駅やそこからの道順、会費や注意事項などを丁寧に教えてくれた。マニアな世界に共通する事だが、変態的な性癖を持っている方は、大変紳士的だという事が言えると思う。自分の性癖に正直に向き合える人というのは、相手に対する気配りもすごいのだ。
 そしてようやく、僕は念願の鼻フックパーティー参加の機会を得たのだった。

 教えられたマンションの一室につき、僕は緊張しながらドアを開けた。その瞬間、コンビニの入店メロディーが鳴り響いてビックリしたが、それは来客を知らせる合図らしい。玄関にはもう何足もの靴が並べられていて、奥からは、がやがやと人の雰囲気がする。僕も恐る恐る中に入っていった。
 手前には小さいテーブルが置いてあり、ペットボトルの飲み物や紙コップ、お菓子などが並べられている。その脇には一人の女性が座っていて、僕を見て優しくほほえんだ。とりあえずその辺に座って、女性にすすめられたお茶をいただきながら、僕はさらに奥をうかがうように見た。
 そここそが、まさに鼻フックマニアの聖地だった。10人程度の人たちが、真ん中を空けるように座っている。高級そうな一眼レフカメラや、小型ビデオカメラまで用意している人、何かのアルバムを見せ合っている人、手作りらしい鼻フックを披露している人、カップルも一組いた。そして、その人たちの真ん中の位置に、一人の女性が座っていた。和風の下着、いわゆる長襦袢みたいなピンクの薄い服を着ていて、参加者の男性と言葉を交わしている。この女性が本日の主役なのだろう。髪はショートカットで、たとえて言えば、今はやりのアイドルグループの麻里子に似たキュートな雰囲気の子だった。
 話しかけている男性はパーティーの常連メンバーのようで、麻里子や他の客たちに、気さくに声をかけている。一方では僕のように、まだ身体を固くしてこれからの展開を待つだけの人もいる。しかし全員が、ある特定の願望を持っていることだけは確かだった。はやく麻里子が鼻フックで調教される姿を見たい、静かなワクワク感を感じながら、僕は彼らの末席でその時を待っていた。

続く

表紙へ