鼻フックパーティーの午後
5
麻里子は順番に観客の前に移動し、それぞれのマニアは、思い思いのやり方で、鼻フック姿の麻里子を楽しんでいる。客層も様々で、僕のようにまだ若い客もいれば、しわだらけの顔を近づけ、麻里子を熱心にカメラに収める、大学の名誉教授だという噂のかなりの老人や、イヤらしい言葉をかけながら麻里子の乳房を揉む、常連らしい熟年の参加者、鼻フック姿の麻里子とツーショット写真を撮ろうとしている客もいた。しかし誰も一線を越える事はない。例えば客が麻里子の下半身に手を伸ばし、長襦袢の合わせ目から手を差し入れ、パンティーの上からアソコを触ろうとすると、Y氏は、「あっ。そこはちょっと…」と穏やかな、しかし確実な意思が含まれた声でNGを出す。あくまでも鼻フック姿を楽しむためのパーティーなのだ。逆に、客が麻里子の鼻フックを引っぱってみたり、その鼻の穴にさらに指を入れてみようとしても、Y氏は麻里子が嫌がらない限り、なすがままに任せていた。そんな客の行動を眺めながら、僕は麻里子にどんな事をしてみようかとぼんやり考えた。しかし実際のところ、まだ女性経験も少なかった当時の僕は、どこか触れればいい、ぐらいの精一杯の気分だった。そうこうしているうちにも、Y氏に連れられた麻里子は、だんだんと僕のそばに近づいてきたのだった。
やがてとうとう、麻里子が僕の目の前にやってきた。すでに何人もの客に触られ、麻里子の興奮度も相当に高ぶっているようだ。頬はほんのりと赤くなり、目は充血して、うっすらと涙がたまっているように見える。はだけられた乳房は張りつめてみずみずしく、その先端にある乳首も、もう十分に勃起しているようだった。そして何といっても、その鼻にかけられている三方向の鼻フックが、麻里子の変態マゾ性を象徴している。その豚のような顔をあらためて見られる事にためらいがあるのか、あるいは、年が近い事を察して急に羞恥心が芽生えたのか、僕の前に来た麻里子は、伏し目がちに、ややうつむいている。正直に言うと、そんな麻里子と向き合うと、僕の方も恥ずかしくなってきた。まるで鏡のように、僕の中のある部分が、麻里子の姿となって存在している気がした。つまり僕自身にも、麻里子のように辱められてみたいという気分がある事に僕は気づいてしまっていた。そういう意味では僕はSというよりも、むしろMに共感して鼻フックパーティーに参加したのかもしれない。
麻里子の後ろに立っているY氏が、「さぁ、どうぞ触ってやって下さい」と、柔らかく、麻里子を慈しむような声で言った。Y氏と麻里子とは、親子ほども年が離れているだろう。手塩にかけた自慢の娘を嫁にやる気分のようなのかもしれない。Y氏の声に反応して、うつむきかげんだった麻里子は膝立ちのポーズのまま、その三方向鼻フックで限界まで広げられた鼻の穴を、僕の真正面に向けた。そして口をやや開き気味にして、僕の次の行動を待ったのだった。
僕は麻里子の目を見つめながら、震えそうになる手を麻里子の頬に当ててみた。横からの鼻フックの紐で、頬も締めつけられて肉が盛り上がっている。弾力のあるその部分を撫でながら、僕はそろそろと、その指先を麻里子の鼻の方に近づけた。そして、人差し指で、鼻フックが強烈に食い込んでいる鼻の穴の入り口をなぞるように、そっと触ってみた。そこはもう、人間の鼻の穴ではない。何か別の物体、というか器官のような感触がした。例えて言うならば、麻里子の性器そのものに思えた。他のマニアたちも、そう感じたのかもしれない。僕は麻里子の変形した鼻の穴を舐め回したい衝動に襲われたが、そこはぐっとこらえて、まず一枚、麻里子の豚鼻を指で触りながら、片手でシャッターを切り、その光景を写真に収めた。それから、指先を少し、麻里子の鼻の穴の中に入れてみた。内側を触ると、そこはわずかに湿り気があり、鼻毛が指先に触れてくる。鼻フック姿の女性はもちろん初体験の僕にも、だんだん気持ちのゆとりが生まれてきた。僕は麻里子の鼻の穴の内側を触りながら、もう片方の手で麻里子の胸を触った。麻里子が身体をびくっと震わせた。それから数枚、麻里子の鼻フック顔を中心に写真を撮ったが、後で見直してみると、手ぶれや麻里子の動きのせいで、大半はピンぼけ写真なのだった。
続く
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