電話は、真理子からだった。
「いま、近くまで来てるの。ミサキちゃんに会いたいんだけど、出てこれるかなぁ?」
そう、真理子は言った。いつもの真理子と違って、声のトーンが低い。
「え、えぇ。少しだけなら、構いませんけど…」
真理子とのいけない行為を想像していたミサキは、その偶然にとまどいつつも、そう返事した。出かけようとして親に呼び止められたミサキは、
「学校の先生に会うだけ、女の先生だから大丈夫よ」
と言い残して、外に飛び出していった。
指定された、近所のコンビニに行くと、駐車場に止めた車の横で真理子が待っていた。
「こんな時間にごめんなさいね。急に呼び出したりして。何か買ってあげる」
真理子はミサキの手を引くと、コンビニに入っていった。そして、ミサキの好みを聞きながら、スナック菓子やジュースを買い込んだ。
「先生、何かあったんですか?」
車に乗り込むと、ミサキの問いかけにも、
「うん、ちょっとね…」
それ以上は答えずに、真理子はだまって車を走らせていた。
「さあ、あがって」
ミサキは、真理子のマンションに案内された。女性の一人暮しらしく、部屋は清潔感にあふれている。居間のテーブルに、真理子は買って来た食べ物を並べた。
「くつろいでね、ミサキちゃん」
そう言って、ようやく笑顔を見せた真理子に安心したミサキも、
「はあーい」
と、おどけて返事をかえした。
真理子は、奥の戸棚から、ワインのビンを持ち出して来た。そして、
「今日は、飲みたい気分なの…」
そう言うと、グラスにワインを注いだ。
「じゃ、かんぱーい」
ミサキの飲んでいるジュースのコップに、真理子は自分のグラスをカチンと合わせた。
「わざわざ来てもらって、ごめんなさいね。先生、じつは今日、ふられちゃったんだ…」
ワインを一口飲んだ後、真理子は口を開いた。
「私たちの関係知ってるの、ミサキちゃんだけだったでしょ。だから、なぐさめてもらいたくて…。変な先生よね。私の方が、生徒みたい」
強がるように、真理子はくすっと笑った。
「そう、だったんですか。なんか、いつもの先生と、違うなぁって気がしてました」
ミサキが言うと、
「そうよね、いつもと違うよね…」
しんみりとした口調で、真理子は口にしたのだった。