Vouloir,c'est pouvoir.

「確かにこれは、オレが作った鼻フックだよ」
 ミチコから手渡された鼻フックを見ながら、オレは記憶の糸をたぐり寄せた。これは、半年ぐらい前に作ったモデルだったよな。限定、100コだったっけ?
 オレは鼻フックを装飾しているスワロフスキーのラインストーンを一つ、デザインナイフで慎重にはがして、その裏を見た。95/97の文字が彫り込んである。
「97個中、95番目だ」
オレは言った。
「どういうこと?」
「100個作る予定だったけど、部品が足りなくて、限定97個にした。そのうちの、95番目の製品、ってことさ」
「へぇ、通し番号なんだ。で、それで何か分かるの?」
彼女は目をパチパチしながら、何度も自分の髪の毛を触った。
(意味が分からない時のクセか)
オレは苦笑いしながら、ミチコに説明した。
「分かるんだな、これが。つまり、この鼻フックを誰に発送したかが」
オレはiBookに保存してある顧客リストを開いて、その欄を見た。
「白井勇三 東京都○○区××3−2−5」
備考欄に、メッセのIDが書かれている。そういえば、鼻責めについて詳しく話を聞きたいっていうから、メッセで話したんだっけ。
 オレはダミーのアカウントでメッセにログインした。彼は部屋を主催しているらしい。変態メス豚の集い、という部屋名だ。
(豚好きなオヤジだぜ、まったく)
オレはあきれながら、その部屋の入室ボタンをクリックした。

続く
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