卓郎は、ある高校の美術教師を勤めている。今年35歳になる卓郎は、その学校で美術部顧問も担当していた。展覧会が近いため、部員の生徒は、美術室にこもりきりで製作に追われている。今日も夜遅くまで、卓郎は熱心に部員の指導を続け、今やっと、それが終わったところなのだ。卓郎は、準備室の机に戻ると、タバコを取り出し一服した。
「先生、片付け終わりました。みんな、帰りましたよ」
ガラッとドアが開いて、部長の美由紀が報告に来た。美由紀はとても熱心な生徒で、今回の展覧会でも、かなり大きな人物画に挑戦している。
「おぉ、そうか。ご苦労さま」
卓郎は、近寄ってきた美由紀から、部活日誌を受け取った。
「あの、ちょっとでいいんですけど、あと少しだけ、私の絵を見て頂けませんか?光の描写が、どうもうまくいかなくて」
真剣な目をして、美由紀が訴えた。17歳、まだけがれを知らない、真っ白い肌の美少女だ。じっと見つめられると、卓郎の頭の中に、小さな裸体が思わず浮かび、男がビクンとうずいてしまう。卓郎は、気を取り直すと美由紀に答えた。
「おっ、そうか。よしわかった、見てやろう」
美由紀が、ほっとしたような笑顔を浮かべる。卓郎は、美由紀の肩に手をかけ立ち上がると、一緒に美術室へと移動した。
「ここなんですけど」
自分で描いた絵の前に立ち、人物画の一部を指さすと、美由紀が問いかけた。
「窓から差し込む光と、部屋の明かりとが、ここのところで一つになりますよね。その辺が、いまいちつかめないんです」
それは、少女が部屋でくつろぎながら、ポーズをとっている絵だった。クッションを抱えて座った少女が、窓から差し込む太陽の光に包まれている。自分の絵を前にして、熱心に説明する美由紀の後ろに立つと、シャンプーの匂いが、かすかに卓郎の鼻をくすぐってきた。
「そうだな、太陽の光っていうのは、直接光といって、まっすぐ部屋まで飛び込んでくる。それとは別に、部屋の中が明るいのは、”環境光”があるからなんだよ。環境光は、向きも強さもばらばらで、そのせいで部屋がほんのり明るくなるんだ。だからまず、部屋を満たす環境光をイメージしてから、太陽の光を描き足すといいかもしれないな」
卓郎の言葉に、熱心に耳を傾ける美由紀は、まるで小さな子ウサギのようだ。(今おれは、美由紀と二人きりなんだ…)
卓郎の頭の中に、ふつふつと、男の欲望がわき上がっていた。
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