第三章
僕のふとんに、裸の女性が横たわっている。健康な男子であれば、やることは一つかも知れない。しかしその時の僕は、裸の真紀をどう扱えばいいのか分からなかった。その理由のひとつには、まだ僕が、服を着たままだったということがある。
僕は、男性が着衣のままで、裸のM女性を縛り、調教するという状況に憧れていた。小説でもそういうものをよく書いていたので、その願望が現実になった今、すっかり満足してしまったのだ。おかしいかもしれないが、その時の僕には、わざわざ服を脱いでまで、真紀と何かしようという気持ちが、ほとんど起こらなかった。
そしてもう一つは、真紀がセックスと縛りとを、分けて考えたいと言っていたからでもあった。SMの関係ならば、服を脱ぎ、自分の身体を舐めさせること、いわゆる”ご奉仕”させることが、その一部に含まれる場合もあるだろう。しかし、そのまま男女の関係になってしまうかもしれない。あるいは、それも含めてSMだという場合もある。縛り以外のことで、真紀がどの程度のことを許してくれるのか、まだ僕は計りかねていた。
今になって考えてみると、経験の多いSであれば、自然に自分も衣服を脱いで、自分のものを舐めさせたり、状況によってはそれ以上の事もできるのだと思う。しかし、僕にはそのような技術はなかったし、気力も尽きていた。
ふとんの上にぼんやりと座って、僕が次の行動を決めかねているうちに、真紀が目を開けた。とても満足そうな表情だ。縛られて満たされる女性がいるということを、知識では理解していたが、それを目の当たりにするとやはり感動した。ほとんどの人には理解されないであろう、僕の”緊縛”に対する思いに共感してその価値が分かり、しかも、僕の縛りに満足してくれる女性がいるということ、それは、これまでの人生の中で、ありのままの僕の存在が認められた初めての瞬間だったと言っても、過言ではないだろう。そのうち真紀はふとんの上に体を起こし、また縛って下さいと、はにかみながら僕にお願いしたのだった。
正直なところ、初めの縛りで、僕はかなり力を使い果たしていた。しかし、縛って下さいと女性から頼まれるなんて、もう二度とないことかもしれない。ここでなんとか、真紀の期待通りの縛りをしてやらなければ、と思った。そこで、気力を奮い起こした僕は、放り出してあった赤い紐を再び手に取ると、なんとかそれをほどく事ができたのだった。
その時、僕の頭にある縛り方は、まだ二種類しかなかった。最初に真紀を縛ったやり方と、もうひとつだけ。しかし後の一つは、SMでも定番といわれる縛り方で、コツさえつかめば割と簡単に縛れ、しかもインパクトがあるものだった。
(亀甲縛りをやってみよう)、そう考えると、僕は真紀をその場に立ち上がらせた。もう裸を見せているとはいえ、その場で急に立たされた真紀は驚き、恥じらいながら、もじもじと体を動かしている。
しかし僕の方はもう真剣に、伸ばして二つ折りにした紐を、真紀の首にかけていった。そして、とまどった表情を浮かべる真紀をよそ目に、首の下あたりで二本をまとめて結び目を作った。さらに、乳房の下、おへそのあたり、下腹でも結び目を作っていった。
その頃になると、自分がどんな縛りをされるのか、真紀も分かってきたらしい。
「えぇっ、これって…、亀甲縛りですよね…」
と、顔を赤らめながら、口を開いた。僕はそれに答えることはせず、かすかにうなずくだけで、さっさと縛りを進めていった。
恥ずかしがる真紀にいちいち対応していたら、全身を縛り上げるまでに気力がなくなってしまうかもしれない。僕は、結び目を作り終えた二本の紐をまとめて、真紀の両足の間をくぐらせ、背中から首までぐいっと引き上げた。真紀の股間に紐がくい込み、真紀が小さく声を出す。気持ちいいみたいだ。真紀は身体をくねらせながら、感じる自分に恥じらっている。僕は、身体を揺らす真紀の後ろに回ると、一気に縛りを進めていった。
つづく
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