鼻フックパーティーの午後

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 クリスマスも近い日曜の昼下がり、僕は都内の某駅で電車を降りると、ある場所を目指して歩いていた。地図をたよりに進むと、やがて向こうに見覚えのある人物が立っていた。携帯電話を手にしている。僕が声をかけると、「やあ、こちらですよ」と言い、角を曲がってマンションの前まで案内してくれた。
 その人物こそ、今回僕が初めて参加する、鼻フックパーティーの主催者Y氏だった。鼻フックパーティーと言っても、普通の人には何のことだか分からないだろう。女体を縛って責めるSMという性癖の世界があり、僕はその世界の愛好者なのだが、鼻フックとは、鼻の穴に引っかけて吊り上げ、鼻の形を豚みたいにしてしまう器具で、女体を縛る麻縄などと同じく、SMプレイに使う責め道具のひとつなのだ。そして鼻フックパーティーとは、鼻フックを使って女体を責める様子をみんなで楽しむパーティーなのだった。

 高校時代にSM雑誌でその世界に目覚めた僕は、大学に入って一人暮らしをするようになると、さらにレンタルのSMビデオにも手を出し、さまざまなSMプレイのバリエーションを知った。そのうちに出会ったのが、鼻の穴にフックを引っかけて上に持ち上げ、豚のような顔にしてしまうという鼻フックプレイだった。
 フックは針金を曲げて作った自家製のようで、鼻フックをかけられる事自体は痛くはなさそうだった。マゾ女性に恥ずかしさを与えて楽しむプレイなのだ。鼻フックプレイはどんなSMビデオにも出てくる訳ではなく、僕はレンタルビデオのジャケットを見て、鼻フックシーンのある物を借りまくった。
 もっとも、鼻フックを調教に取り入れる調教師、いわゆるSMビデオでのS役の男性、は限られていたので、探すのにあまり苦労はなかった。
 ところでSMビデオには、レンタル店で借りられる物以外にも、アダルトショップや通信販売で手に入るセルビデオというものがある。これは文字通り、一本五千円から一万五千円ほどで売られている(=セル)ビデオで、数百円でレンタルできるSMビデオとは桁違いの値段だ。しかしセルビデオには、レンタルのSMビデオでは決して見られないような、ディープな世界が収録されている。例えばその当時、レンタルビデオでS役を演じている男性が、独自のレーベルで発行している緊縛ビデオなどが有名だった。そのビデオにはセックスシーンはなく、さまざまなやり方で女体を縛っているだけなのだが、そこがまた緊縛マニアにとってはたまらないのだ。SM誌で紹介されるそれらの内容を見て、僕もセルビデオを見てみたいと憧れを強くしていった。
 やがて大学を卒業して社会人になり、ボーナスなど自由に使えるお金も多少増えてきたので、僕もとうとうセルビデオを購入してみることにした。
 その頃になっても鼻フックが出てくるレンタルのSMビデオは依然として研究していたが、それほど増えてきた訳ではなかった。しかし気になる人物が一人現れ始めていた。SM誌の紹介によると、その人物Y氏はSMプレイの中でも特に鼻フックを多用し、愛好家の集まる調教パーティーを催したり、その様子をセルビデオとして発売したりしているらしい。レンタルSMビデオにも時たまS役として出演していて、縛りの技術なども本格的だったが、鼻フックプレイはレンタルビデオでは見られなかった。本当の世界を知るには思い切ってセルビデオを買うしかないのだ。ちょうどそういったビデオを扱うお店が近くにあったこともあり、僕はY氏の主催するレーベルのセルビデオを買うことにした。

つづく

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