ある夜の出来事5
全てを放出し切った僕の身体は、すぐに現実に引き戻されていきました。ここが本当のマゾ女性とは違うところで、射精をしてしまったら、快感は急速に薄れてしまうのです。再び、足の痛みがよみがえりました。
そんな男性の生理を熟知しているマスターは、手早く縄をゆるめると、僕の身体を少しずつ下ろしていきました。やがて、背中が床につき、足を伸ばして座れるぐらいまでになりました。
マスターが足首の縄をほどいていくのを、僕はぼんやりと眺めていました。股間のあたりは、自分の出した白い液体で、ぐちょぐちょに汚れています。ただ、この段階までくると、羞恥心というものは全く感じません。足首の縄をほどき終わったマスターが、僕の股間をティッシュでぬぐってくれます。赤ん坊のような気持ちで、僕はマスターに全てをまかせ切っていました。
「イッた後でもしゃぶらせるんだぞ、オレの奴隷なら」
マスターは僕を立ち上がらせると、身体にかかった縄をほどきながら、そんな事を言いました。普通、SMサロンの出会いでは、射精をすると、そこでプレイが終わることがほとんどです。イッてしまうとMの興奮が薄れる事は分かっているので、その場限りの関係においては、Sといえども、それ以上の要求をしてくることは少ないのです。しかし、より深く、ご主人様と奴隷としての関係を結ぶのであれば、射精した後でもなお、マスターに御奉仕するということが、調教の一つとして求められることになるのでしょう。
「オレの奴隷になってみるか?」
マスターは尋ねました。たくさんマスターに責められ、快感を与えられ、射精して平常心に戻った後でも、なおマスターに御奉仕できる、そこまですれば、マスターの奴隷としてさらに調教してもらえるのでしょう。個人的な主従関係の世界は、SMサロンの体験以上に魅力があるのかもしれません。しかし正直言って、その時の僕には、まだその一線を越える気持ちはありませんでした。射精をした段階で、僕のM女妄想はなくなっていくのです。あいまいな返事をしたまま、その時は終わってしまったのでした。
そのあとシャワーを浴び、服を着て、マスターに見送られながら、僕はその部屋を後にしました。思いもよらない体験ができた興奮でいっぱいになったまま、僕は人ごみの中を歩いていました。調教が終わった帰り道も、僕の好きなひとときです。平静を装いつつも、心の中では身体に残る痛みを味わいながら、僕はさきほどの光景をじっくりと思い浮かべていたのでした。
もうかなり昔の事になってしまいましたが、あの時、マスターが奴隷にならないかと誘ってくれたことを、僕は今でも嬉しく思っています。ぐちょぐちょのペニスとお尻の穴を責められながら、マスターに御奉仕する自分自身の姿を頭に描き、オナニーしてしまうことさえあります。しかし、射精をしてからなおも、僕がMのままでいられるかということには、やはり自信が持てないのです。男性に縛られ、責められることが好きだというのは事実なのですが、それはあくまでも自分の快感を求めるためで、完璧なマゾという訳でもない気がします。つまり結論を言うと、僕は自分の欲望に忠実な、エゴイストなのでしょう…。
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