「先生、ここは、どう解けばいいんですか?」
机の上に開いた問題集の、ページの一部を指さしながら、真奈美は問いかけた。
ピンとのばした、ほっそりとした指は、しゃぶりつきたくなるほど白く、艶かしい。いやらしい妄想を頭に浮かべながら、真奈美の身体を眺めていた昌一は、はっとして、問題集をのぞきこんだ。
昌一が、真奈美の家庭教師を引き受けてから、はや三か月が過ぎようとしていた。
有名大学に通う昌一は、四月のある日、銀行員の父親から、ひとつのバイトをもちかけられた。父親の上司の娘で、中学三年生の真奈美という子が、とあるお嬢様高校への進学を希望しているのだが、いまいち成績がふるわず、いい家庭教師を探している、と言う話だった。息子が有名大学に通っていることを聞くと、父親は、その上司から、昌一にぜひ一度、家庭教師に来てほしい、と求められたそうなのだ。一度教えてみて、娘に合うようなら、継続して頼むことにしたいし、バイト代も高くはずむ、と言われたらしい。
昌一にとって、それは願ってもないチャンスだった。大学の理科系学部に通う昌一が、そんなに若い女の子の部屋で、時間をともにすることなど、普通ではとうてい考えられない。じゃあ一回だけならと、気の乗らないふりを装いつつ、内心は未知の経験に興奮しながら、昌一はその依頼を引き受けたのだった。
会ってみると、真奈美は想像以上の美少女だった。細くて色白で、髪の毛は黒く、腰にかかるほど長い。最近あふれている茶髪のコギャル、などというものとは比較ができないほど美しく、可憐な花のようだった。それに、誰にでも素直なまなざしを向けてしゃべった。もちろん、昌一にも、尊敬のこもった口調で話した。真奈美が一人っ子であるせいかもしれない、昌一は、そう考えた。自分のことを、年上のお兄さんができた、ぐらいに思っているのだろう、と昌一は考えたが、それは彼にとって悪い経験ではなかった。
実際に学科を教えてみても、真奈美は何でも素直に聞いた。素直すぎて、自分から何かをしてみよう、という気持ちがなく、それが成績の低迷につながっているのかも、と判断した昌一は、真奈美に少しきつい課題を与えてみた。真奈美は、昌一が与えた課題に熱心にとりくみ、1か月もたたないうちに、成績は上昇していった。喜んだ父親は、昌一に礼を言い、今後もずっと真奈美の家庭教師を続けるように依頼して、高いバイト料を約束したのだった。