真奈美を教えていくうちに、昌一は彼女に、ある感情を抱くようになっていた。それは、男性ならばだれでも抱く、恋愛感情、とは少し異なったものだった。もっとも、恋愛の対象としては、真奈美はまだ幼すぎた。それよりも、ある背徳的な感情が、昌一の胸にはわき起こっていたのだった。
高校生の頃から、昌一はひそかに、SM雑誌を愛読していた。厳しい受験勉強に追われる日々のなかで、それは昌一にとって、たった一つの楽しみだった。昌一は、真夜中の勉強部屋で、引き出しの奥から、密かに手に入れたSM雑誌を取り出すと、そこに載っている、恥ずかしい姿で縛られた全裸の女や、いやらしいSM小説を読みながら、こっそりと自分を慰めていた。
ただ、それは、あくまでも想像上でのできごとだった。小説の中では、可憐なマゾ奴隷の美少女が、生まれたままの幼気な格好で、自らの肉体をサディストたちに捧げていたが、現実にはまさか、そんなことがある訳はないと考えていた。空想の世界に遊ぶことだけで、昌一は満足していたのだ。
大学に入学してからも、SMが空想だけの世界であることには変わりはなかった。多少は女の子と知り合い、人並みに男女の関係まで経験した今になっても、昌一はそのようなM性を持った女性にはまったく巡り会わなかった。昌一は少し失望しながらも、現実はそんなものなのだろうと、なかばあきらめの気持ちになっていたのだった。
しかし、真奈美に会ってから、昌一の空想の世界の中には、とつぜん真奈美があらわれるようになったのだ。全裸できつく縛られ、両目から涙をあふれさせながら、必死でムチの痛みに耐えつづけている、そんな真奈美を想像するようになったのは、なぜだったろうか。思いがけず若い、美少女に出会うという、普通では考えられない経験をして、昌一の頭の中のタガが外れたのかもしれない。しかし、昌一は、真奈美自身から、何か背徳の匂いを感じ取れるような気がして仕方がなかった。単に箱入り娘だからなのか、それにしても、従順すぎる、そんな印象だった。
例えば、問題がなかなか解けない彼女を、昌一が厳しく叱ったときも、真奈美は必死な表情を浮かべ、じっと耐えて涙を流した。そんな真奈美を見ているうちに、(SM雑誌に出てくるマゾ奴隷にそっくりだ…)と昌一は思い、いつしか昌一の頭の中で、真奈美はいやらしく責められ、なぶられていたのだった。