第三章

 夏らしくなってきた七月のある日、昌一は忠弘から、別荘旅行に招待された。忠弘は、
「昌一君のおかげで、真奈美の成績も上がり、娘ともども感謝しておるのです。私たちは夏の間、軽井沢の別荘に出かけるのですが、つきましては、昌一君もぜひ御招待したいと考えているのだが」
そう、昌一に提案したのだった。
 これまた、なかなか経験できることではない。昌一は、二つ返事でそれを承諾していた。
 夏休みに入ってしばらくたったある日、昌一は真奈美の家族とともに車に乗ると、軽井沢に向かっていた。家族といっても、忠弘と真奈美、お手伝いさん、それに運転手の4人だけだ。リムジンの助手席にはお手伝いさんが座り、客室には、昌一が、真奈美と忠弘に向かい合って座ることになった。
 「娘のことでは、昌一君に、本当によくして頂いて、ありがたく思っておるのです」
忠弘に言われると、真奈美もすぐに目を伏せて、すっと頭を下げる。
 真奈美のあまりにもしおらしい態度を見て驚いた昌一は、
「いやいや、真奈美さんの素質がいいんですよ」
と、あわてたように言葉をかえした。それを聞いた忠弘は、
「素質、ですか。なるほど、そうですなぁ」
と、笑みを浮かべながら、真奈美の頭を撫でたのだった。その光景を見た昌一は、
(一人娘だから、とてもかわいがっているんだろうな)、と、忠弘を少しうらやましく思った。
 別荘に車が到着すると、昌一は、そのあまりの広さに驚いた。木造建築の邸宅に、テニスコートやジャグジー風呂、裏に回ると広い庭まであった。ひととおり忠弘に案内されて、その贅沢ぶりに、昌一はあらためて目を見はるばかりだった。
 リビングルームでくつろぎながら、忠弘は言った。
「私達は、夏の間はいつもここで、休暇を取るようにしているのです。銀行の仕事というものは、とても気遣いが多いですからな。それに、真奈美にとっても、いい気分転換になるのです」
そんなことを、昌一に話しかけた。

続く
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