さゆり先生に手を引かれながら、私はどきどきしてマンションのエレベーターに乗りこみました。幸い、エレベーターには誰も乗って来ません。エレベーターの中で、さゆり先生は、私に話しかけました。
「その辺をお散歩するだけだから、我慢できるわよね」
そう言われると、私は恥ずかしそうにうなづいていました。
 やがてエレベーターを下りて、マンションの玄関に出ました。冷たい風が、コートの中にすうっと入って来て、私は思わずぶるっと震えていました。先生は私の手を取ると、コツコツとヒールの音をさせながら、ゆっくりと道路に出て行ったのです。
 先生に手を引かれながら、私は、うつむきかげんで歩いていました。あまりの興奮に、心臓の鼓動がどくどくと聞こえます。さゆり先生は、私にぴったりと寄り添って歩きながら、耳もとでささやきました。
「みゆきちゃんのいやらしい格好、みんなに見てもらえるといいね」
 その言葉を聞くと、私の頭には、かぁっと血がのぼり、全身が熱くなってゆきました。
 その時、前から、一台の自転車が走って来るのが見えました。若い男の人が乗っています。私は、あまりの恥ずかしさに足がすくんでしまいました。
 私たちの方を見ながら、その人は近づいて来ます。私はうつむいたまま、自転車が通り過ぎるのをじっと待ちました。
 やっと自転車が行ってしまうと、さゆり先生に話しかけられました。
「今のお兄さん、みゆきちゃんの恥ずかしい格好に気づいたかも、ほら」
 私のコートの襟元からは、縛られた赤いロープがのぞいていたのです。
「いやっ…」
 私は、恥ずかしさのあまり、首を左右に振っていました。するとさゆり先生は、
「みゆきちゃん、ちょっと辛すぎた?ごめんね」
そう言いながら、私をぎゅっと抱きしめてくれたのです。
 さゆり先生に優しく頭をなでられていると、私の気持ちはだんだん落ち着いてゆきました。
「近くに公園があるでしょ。あそこまで、歩いて行けるかしら?ゆっくりでいいから」
 優しい声で促されると、私はマゾ奴隷の気持ちになって、小さくうなずいていたのです。

続く
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