「ミサキたちも、もう下校しなさい。閉めるわよ」
ドアを開けて入って来た真理子は、コンピューターの画面をのぞき込んでいる少女たちに呼びかけた。
ここは、ある女子校のコンピューター室。22才の真理子は、この春から勤めはじめた新米教師で、情報処理の科目を担当している。この部屋の管理もまかされているので、施錠をしにやって来たのだった。
「なに見てんの?またエッチなページ?」
近づいて来た真理子は、一緒になって画面をのぞきこんだ。視線の先には、大小さまざまでカラフルな、大人のおもちゃが並んでいる。
「先生はどれがいいの?私、この透明のだったら、試してみてもいいかなー、なぁんて」
グループでリーダー格のユキが、冗談っぽく言った。
「あなたたちには、まだ早いって。そんなの選んでるより、今のうちにキチンと勉強しておかないと大変よぉー」
こんな会話ができるほど、真理子は女学生たちに溶け込んでいた。年が近いのと、活発な性格、そしてだれもが心を開けるような、不思議な魅力のせいだった。
真理子は少女たちの頭を軽くなでると、
「じゃあ、カギはここに置いとくから、帰る時に閉めて職員室に持って来てくれる?もうちょっとそれ見てていいから。でも、ほどほどにしてよね。そんなページ見てるの見つかったら、先生おこられちゃうもん」
そう言い残して、部屋を出ていった。
「ミサキ、真理子センセイにいつも声かけられるよね。もしかして先生、ミサキのこと好きなんじゃないの?」
ミサキの髪をなでながら、ユキがそうからかった。ミサキは別に目立つようなタイプではないのだが、最近、真理子によく声をかけられるのは事実だった。
「そんなことないってー。でも先生ならいいかも…、なんてうそうそー(笑)」
ミサキは、照れかくしをするように、わざと明るい声を上げた。
しばらくエッチなページを見回ってから、ミサキたちはコンピューター室を後にした。友達と別れて、ミサキとユキはカギを返しに、職員室に向かった。
「さっきの、ことだけどさ」
廊下を二人で歩いていると、ユキがミサキに話しかけた。
「えっ?さっきのことって??」
ミサキが聞き直すと、ユキはすこし真顔になって言った。
「真理子先生、最近ミサキに優しいよね。そう思わない?何かあったの?」
「ううん、別に何もないよぉー。ユキが考え過ぎてるだけだよ」
「そうかぁ、そうだよね。先生、みんなに優しいもんね」
すぐにユキは明るい顔になって、そう口にした。しかし、ミサキは、また、あの日のことを思い返していたのだった…