そう、あれは先週の土曜日のことだった。街に出かけた帰り道、ミサキは少し先のカラオケボックスから出てくる真理子を見かけた。あっ、先生だ、そう思って急いで駆け寄ろうとした時、真理子の後からもうひとり、少し小柄な女性が姿を見せた。ミサキが見ていると、二人は道に止めてあった真理子の車に、一緒に乗り込んだ。そしてちょうどミサキが真理子の車の近くまで来て、中をのぞきこんだ瞬間、二人の顔は重なっていたように見えたのだ。
(もしかして、”キス”してたの…?)
 それは、単に思い過ごしだったのかもしれない。でも胸がどきどきして、真理子に声をかけられないまま、ミサキは車の横を通り過ぎてしまったのだった。
 あれ以来、真理子に話しかけられるたびに、ミサキの胸はなぜか高まっていた。
(真理子先生、女の人好きなの…?それって、”レズ”ってこと?)
そのうちに、そんな考えが頭に浮かぶようになってきた。性に目覚めたばかりのミサキの心の中で、その妖しい思いは少しづつ膨らんでいった。
「どうしたの、ずっと何か考えてるみたいだけど」
 ミサキの様子を見ていたユキが、不思議そうに話しかけた。
「う、ううん、なんでもないよ」
ミサキは、頭の中のもやもやしたものを追い払うように、首を強く左右にふった。
「変なのー。早く職員室いこうよ!」
そう言うと、ユキはミサキの手を引っぱって、廊下を小走りに駆け出して行った。

「ミサキちゃん?先生の顔に何かついてる?」
 真理子がミサキに、そう問いかけた。職員室でカギを返してから、二人は真理子と少し話したのだが、土曜のことが気になっていたミサキは、ついまじまじと真理子の唇を見てしまっていた。真理子はその視線をいぶかったのだった。
「え、ええ何にも。すみません…」
 突然の言葉に動揺したミサキは、うつむきながら謝った。
「何あやまってるのかしら?ミサキちゃん変よ」
真理子の気遣いの言葉にも、かえっていけない想像をしてしまったミサキは、ぽうっと顔を赤らめながら、
「いいえ、なんでもないんです。さようなら」
と言い残して、職員室を飛び出していった。

続く
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